◆出会いの季節

ちょうどユノカを立上げて間もない頃に、取材させてもらったのが奈良県吉野
郡黒滝村にある葛工房の葛正 宮崎正芳さん。もう7年ほど前になるだろうか。

ちょうど宮崎さんも葛工房立ち上げ間もない頃で、妙にものづくりについての話で盛り上がった。春のユノカの定番石鹸となって久しい葛櫻が生まれたきっかけをつくってくれた出会いともなった。




時は流れ、今、黒滝村の工房で葛を晒しているのは、若き葛職人小屋孝士さん。

2年ほど前、身体の不調で晒し作業ができなくなるかもしれないと沈んだ宮崎さんからの電話を受け、葛の泥実(葛を晒した水)で仕込む葛石鹸はつくれなくなるかもと話しあっていた頃、突然、宮崎さんからの明るい声の電話。

「葛工房の継ぎ手が決まりました。これからも泥実を提供できます!」


◆縁が生まれる時節

小屋さんは黒滝村から車で数十分ほど上手にある天川村洞川の出身。お母さん
が洞川で宮崎さんの葛を使い、胡麻豆腐を手作りで製造販売している縁から葛工房を継ぐ話が持ち上がった。

「ほんと、縁なんです。宮崎さんがほぼ一人で手作りした工房や道具をそのまま引き継がせてもらって、葛をつくる技術も販路もすべて継がせてもらって本当に感謝してるんです。」


工房を引き継いだのは一年半ほど前。工房名は、芳山(ほうざん)と名づけた。

まだまだ、宮崎さんに見守られながらの作業だけど、今は葛をつくる作業すべてが新鮮だし、どれも愉しいという。でも、人の口に入るものだし不安はある。

「ときどき夢にみるんですよ。小屋くん、葛が固まらんよ、というお客さんからのクレームの電話とか。」



奈良県内でも全国的にも国産葛のみで手づくりしている葛工房はほとんどない。

値段の安い中国産や韓国産を使ったり、葛に混ぜる甘藷(さつまいも)の粉の量を増やしたりしている所が多いし、寒いわ匂いもきついわの重労働から、手作りで葛をつくろうなどという葛職人がいない。


吉野葛は本葛が6割以上、甘藷が4割以下と定義されているが、小屋さんの作る吉野葛は本葛の割合がさらに多くなるようにしている。



◆手は伝える

「だから、うちの葛は腰が強いでしょ。宮崎さんがつくりあげた味や技、なにより信用を落としたくないので。」

葛職人の手技と味がひとつ引き継がれ、守られたことがうれしい。

若き職人の誕生に出会えたことがうれしい。


そして、この春も葛櫻を仕込むことができたことがうれしい。


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