◆森のDNA

「森林の樹木は自分にとってよいものを助け、悪いものは殺します。彼らは、たったままで何千年も生きる力をもっています。その間、各時代における気候の変化を乗りこえるDNAを備えているのではないでしょうか?」

かく語るのは、アイ・ジャパンの堀江茂幸さん。堀江さんの会社では、岐阜県東濃の山里でヒノキや杉、竹などから植物エキスを抽出する装置の開発や抽出液の製造、販売などを行っています。


◆地域力を育む

岐阜の東濃といえば、ヒノキが伊勢神宮の式年遷宮で外宮の御神木として使用されることでも知られる銘木の産地です。その森もご多分に漏れず、今は間伐する費用や人手もなく荒れ放題。間伐しても間伐材は捨てるだけ。

「わたしは、東濃の山の資源を有意義に活かし循環させることで、地域が活性化できればいいなと思っているんです。」



◆植物のチカラ

「実は、20年間、アトピー性皮膚炎に苦しみまして。根本的に治せたらと、ある薬学の先生から2年間薬学を学び、自然に近い方法で治療する方法を模索したんですよ。」

模索の末、たどりついたのが、グアバ茶。オゾンで乾燥させた真っ青のものをアメリカから取り寄せて飲み続け、加えて、日々のお風呂ではヒノキの石鹸で身体を洗うようにして1年半、嘘のようにきれいに治ったのだという。

これをきっかけに植物のもつ力をもっといろんな人の役にたてるような仕事をはじめたいからと、水蒸気蒸留の装置をつくり、精油抽出の仕事を仲間と一緒にはじめた。



「蒸留の仕事を一緒にはじめた仲間のほとんどが、今はやめてしまいました。」

昨今のようなアロマセラピーブームもなく、販路を確保できなかったのが大き
な要因だという。そんな状況下で、堀江さんは工場から排出される臭いを消すという分野に目をつけたのが分け目になった。

ただ、水蒸気蒸留の抱える問題点は、とにかく時間がかかりすぎるということ
だった。ひとつの窯で1日1回抽出することしかできない。これでは効率が悪く森の間伐材をすべてさばくことは難しい。




◆不思議な水のチカラ

「そんなとき目をつけたのが『亜臨界域』という水の特殊な領域で蒸留することなんですよ。」

堀江さんは、岐阜県、東京大学、水熱科学研究組合と産官学のタッグを組み、「亜臨界抽出」の研究開発に取組みます。

亜臨界域とは、水が375度、220気圧より低い高温高圧になっている状態で、大きな成分抽出力と加水分解力をもつのだという。

少し前にシャープの家庭用オーブン「ヘルシオ」が水を100〜300度まで上げた過熱水蒸気で“食品を焼く”というのが話題になりましたが、これは常圧(1気圧)での話ですが、これに高圧力がかけられた状態というとイメージが湧くかもしれません。




亜臨界水は粒子が非常にこまかいガス状態で、葉や木材の深部まで入りこみ、精油や水溶成分を水蒸気蒸留より短時間で、大量に抽出できるという。後には炭が残ります。

炭焼きの副産物としてとられた木酢液や竹酢液にはタール分やベンツピレンといった発がん性物質が含まれてしまったが、亜臨界抽出でとらえた抽出液には煙を使わないため含まれないという。

この抽出液は消臭力もあるが、殺菌力もあるので、病院などのウイルス感染を予防できます。逆に、土壌内の乳酸菌や酵母菌の活性を高める力もあり、果実の糖度をあげたり収量を上げるという。


だが、亜臨界抽出にも欠点があります。

短時間で一気に抽出するため、水蒸気蒸留のように蒸留のはじめのころに抽出される高い香りのものと、あとの方で抽出されるすこし香りが鈍くなったものを分けて抽出できない。また、高温域で蒸留することで香り成分が壊れるのももある。こうした点はまだまだ研究の余地があるのだ、堀江さんは語ります。

それでも、われわれがわけて頂いたヒノキの葉の精油は、繊細な柑橘系で上品な香りがする上質なものだった。



堀江さんの身体を救ったヒノキの石鹸ほどの力をもつか。ユノカでも東濃のヒノキ葉精油とヒノキ葉水で石鹸を作ってみます!と約束を交わし、東濃の地を離れた。


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