鹿児島空港から北へ車を走らせること30分、湧水町に入り山道を少しあがっていくと、小高い丘の上に鹿北製油さんはあります。



町名からもわかるように霧島山からの湧水が散在するこの地に、2005年創業地である菱刈町(現伊佐市)から移転してきた。

鹿北製油さんは、無農薬、国産原料のごまやなたね油を昔ながらの製法で搾っている日本では数少ない搾油会社です。



「鹿児島の地は日本一のなたねの生産量を誇っていて、昭和20年代には搾油工場が300軒以上あったんです。

菜の花の季節には黄色い絨毯のようになたね畑が広がっていたそうですよ。

搾油した油は三輪トラックにのせて鹿児島の港に運ぶと、大手の会社の船が港に集まっていたそうです。」

二代目社長の和田久輝さんは静かに語ります。



「うちもなたね油専門工場として20年代半ばに創業し、鹿児島産のなたねで油を搾っていました。

昭和40年代になると食用油は作れば売れる時代になり、さらに価格の安いカナダ産やオーストラリア産が入ってくると、うちも国産以外にも手をだして搾るようになりましてね。

そのころから国産なたねの栽培量も激減しました。」


現在、大手の製油会社の搾油方法は、ノルマンヘキサン抽出法という有機溶剤(ノルマンヘキサン)をつかった方法です。溶剤にとかして抽出するため搾油効率もよく、一度に大量に搾油することができる。

だが、ヘキサンには毒性がある。抽出後には、ヘキサンを油から除去する処置をとるのだが、完全除去は難しく油の中に残留してしまうのだという。

(鹿北製油さんの設備ではありません。)

さらに、消包剤として苛性ソーダや脱色、脱臭のシュウ酸などの薬品を使うのだが、これらにも毒性がある。そして、油に残留する可能性を否定できないのだが、どれも最終食品には残存しない加工助剤として表示義務はないという。

(鹿北製油さんの設備ではありません。)


一方、昔ながらの石臼を使った玉締め法や小型の圧搾機をつかったペラー式圧搾法は溶剤を使わず圧搾するので薬品が混入する危険がない。

ただ、搾油効率が悪い。ヘキサン抽出だと1日1500トン搾れるところが、圧搾法だと2トン、玉締めだと800kgがやっとだという。


和田久輝さんが、昭和59年大学卒業後に父親の経営する鹿北製油に入社した当時は、すでに効率の悪い玉搾り機は処分されていた。

だが、大手とは違った、量ではなく質で勝負できる物を作っていかないと未来はないと、非効率ではあるがより安心安全な玉締めや圧搾法に再び戻していくことを模索しはじめたという。


「この玉締めの機械は、指宿の農家で眠っていたものを譲り受けたんですよ。パッキンは牛の皮、マットは綿布を使っているんですよ。

昔は、人毛マットを使っていたんですが、パーマや毛染めをする人が増え、食品衛生法の許可がおりなくなって綿布にかわりました。本当は油を吸わずさらっと流れ出る人毛マットがいいんでしょうけど。

その名残りで、綿布はいまだに京都のかつら屋さんが販売しているんですよ。」

鹿北製油では、黒ごまなど一部の油で搾油前の焙煎はまき火で行っている。

焙煎後、油が出やすいようにローラーですりごまにしたあと蒸気で蒸しあげ、綿布にくるみ石臼の重みで搾っていく。

搾られた油を7日間静置沈殿させてから、3日かけて23枚の漂白のない手漉き和紙でろ過していく。

「静置している間に、ごま油の一割ほどが澱(おり)として溜まるんです。

沈殿した澱(ごまペースト)にはごま油も含まれていますし、ミネラル分も多く、クリーム状で延びもよいいので肌や髪に塗るとすべすべになるんですよ。


インドやスリランカのアーユルベーダのように使えればいいんですが塗ったあと落とすのが大変で・・・。」

農家の人が手塩にかけて育てたごまを、一切無駄にしたくないという思いが伝わってくる。

黒ごま油の澱(ペースト)


和田さんは、これまで日本古来からの油であるなたね油、ごま油、椿油、えごま油、かやの実油を国産原料で復活させてきた。

だが、その道のりも原材料を栽培する農家がいなければはじまらなかった。とくに、はじめた当時の年間国産ごま生産量は200kgくらいしかなく、契約農家を一軒一軒増やすことで、今では80トンあまりを確保できるようになってきた。

「防虫剤である樟脳や和ろうそくの原料であるハゼロウも復活させていきたいんです。すべて搾る機械は同じですから。」



現在、移転してきた36、000坪もの広大な敷地に、アーモンド15、000坪、ごま畑3、000坪、椿山15、000坪を植栽する予定だという。

「あと3年で国産アーモンド油も搾取できる予定です。」

敷地を公園とし自社製品を活用したお菓子や飲み物、ソフトクリームなどを提供する構想も・・・と、和田さんの夢はとめどなく溢れてくる。


2010年秋、ユノカでは、無農薬有機栽培の国産黒ごま油を搾る際にでた澱(ペースト)を鹿北製油さんからお分け頂き、吉野本葛を晒す際にでた葛の泥実(未精製状態の葛水)で仕込んだ吉野本葛・黒ごま石鹸を企画。

石鹸名は鹿児島県にゆかりのある「黒葛(つづら)」に。

薩摩黒ごまと吉野本葛の出会いを肌で感じてみてください。

◆鹿北製油さんのサイトはこちら