徳島県は、言わずとしれたすだちの一大産地。しかし、全国シェアが95%というのは驚きの数字です。

今回の取材先である、すだち華園さんもその名の通り、すだちを中心に栽培しているが、数年前から無農薬でのレモン栽培に取り組んでいるという。

明石海峡大橋を渡り、淡路島を横切り、車を四国三郎吉野川に沿って一時間ほど西へ。徳島県の北西部に、四国山脈と阿讃山脈に挟まれた山間の街、東みよし町にすだち華園さんはある。

「すだちを栽培しはじめて30年くらいですかね。レモンはまだ栽培をはじめて5年目。昨年秋から出荷をはじめたところなんですよ。」

すだち華園の真鍋道男さんはサラリーマンをしながら、兼業農家としてすだちをはじめ、柿やはっさくなどの栽培をしてきた。


「ここ5年ははインターネットでの出荷量が増えてきました。

特に、干し柿用の枝付きあたご柿は、北海道から九州までご注文を頂きますね。東京や神奈川、千葉あたりから多く頂きますよ。」

2012年2月下旬ごろの柿の木

確かに、都心部で干し柿を自分でつくりたいと思って、枝つきで渋柿を入手したいと思ってもどこで買えるか想像できない。

ひとりからの注文で最低30kgはあるそうなので、ニッチながらもなかなかのニーズである。

2012年5月中旬ごろの柿の木

平成18年からはナギナタガヤによる草生栽培を取り入れている。

2012年2月下旬ごろのナギナタガヤ

ナギナタガヤは、秋に芽を出し、冬から春にかけて育つイネ科の草で、草丈は70cmくらいになるが、6月上旬には自然に倒れ、中旬には枯れ始める。

ちょうど敷きわら状態となり、一番の雑草生育時期に一面を覆ってくれ、あとから雑草の生えるのを防いでくれる。

除草剤をかけずに栽培できるのは、安全安心を志向する消費者にもうれしいし、栽培農家としても草刈りの手間と農薬を省ける注目の栽培方法である。

2012年5月下旬ごろのナギナタガヤ
枯れたナギナタガヤは肥料となるし、土壌の保水や保温効果も高めるので、果樹の生育促進にも寄与するという。

兼業農家で人手を少しでも省きたい、かつ、作物の付加価値を高めたい真鍋さんにとっては願ったりかなったりの栽培方法であろう。
2012年5月下旬ごろのカボス(開花時期)

さて、そんな真鍋さんに、なぜレモン栽培をはじめたのか聞いてみた。

「すだちの収穫が7〜10月で終わり、柿が10月から11月で終わると、年末から2月頃まで収穫できる作物がなかったんですよ。

レモンは10月初旬のグリーンレモンから、年を越えてからのイエローレモンへと4月下旬ごろまで長く収穫、出荷できるのもちょうどよかったんです。

ただ、この辺りは寒冷期に氷点下になることも多く、雪も降るのでハウス栽培にするしかなかったんですよ。」


取材に伺ったのは2月下旬の曇りの日だが、日中のハウスの中は汗ばむくらいに暖かく、ハウス内の温度計を見ると20度を超えている。

しかし、朝晩は氷点下になる日があるという。


「ハウスの利点としてはもうひとつ、雨を避けることができるということもあるんですよ。

雨水などで菌の感染が広がる柑橘かいよう病を防ぐことができるでしょ。

すだちは果汁だけしか使わないので、潰瘍病用の農薬を使えても、皮も利用することが多いレモンは無農薬の方がいいでしょ。

路地物だとどうしても農薬を使うことになりますし、無農薬だからといって、かいよう病に感染した果皮を口にするのは見た目にも気持ち悪いですから。」
これは、かいよう病ではなく、エカキムシ

さらに、かいよう病の細菌は葉や実にできた傷口から侵入するので、なるべく傷がつきにくいように、棘の少ない品種のユーレカ種のレモンを選んだという。

「ユーレカ種は、棘が少なくて葉や幹、果実に傷をつけにくいんです。カリフォルニアなど一般的につくられているリスボン種より寒さに弱いのと、成長が遅いのが難点ですかね。現在、アレンユーレカとクックユーレカの2種類のユーレカ種を植えています。」

苗は通販で千葉の農園から苗木を仕入れているという。

「徳島のJAはすだちだけに力を入れてますし、JA経由で取り寄せても高いだけですからね。


一本のレモンの木に1000個くらい実がつけばいいんですがね・・・。

花は一年中咲くのですが、5月頃が一番多いですかね。5月に咲いた花だけで、1000個くらい実をつけさせて、収穫したあとは木を休ませる方が本当はいいと思うんですが。」

2012年5月下旬ごろのレモンの花

レモンの栽培方法はまわりに参考になる果樹園がないので、枝の剪定方法から肥料のあげ方まで、これまでの柑橘類の栽培法を参考に、自己流で試行錯誤しながら栽培している。

そんな研究熱心な真鍋さんのところには、同業者が栽培方法を視察にやってくるという。



「5月の花が咲いた時のハウス内の香りといったらなんともいい香りですよ。柔らかで優雅で、それでいて強すぎず・・・。」

柑橘系の花の精油といえば、オレンジビターの花から抽出されるネロり精油が有名であるが、レモンの花の香りもそれに劣らぬ気品のある香りなのだろう。

貴重なレモンの花を分けて貰うわけにはいかないので、もぎたてのレモンを分けて頂き、

5月の花の時期に再び訪れることを約束して、すだち華園さんを後にした。


(追記)

お分け頂いたレモンの皮をウォッカにつけこんでリモンチェッロ(Limoncello:レモン のリキュール)をつくり、レモン皮と搾った果汁からレモンカード(レモンジャム)を作ったが、皮も果汁も瑞々しく、風味豊かに作ることができた。

リモンチェッロを配合してつくった夏石鹸でその風味の一端を感じて頂ければと。

また、5月にすだち華園さんを再訪した。開花の最盛期は過ぎていたが、真鍋さんがおっしゃる通り、レモンの花の優美で甘美で気品ある香りでハウス内は溢れていた。

いつか、レモンの花から蒸留水を抽出してみたい!