滞在していたサンタフェの街から北西へ車を飛ばすこと約一時間、ホワイトロックの地にあるヤギ乳石鹸工房&ヤギ牧場「Second Bloom Farm」へと向かいます。

◆ヤギ牧場

急な訪問にも関わらず、工房主のDebby Woodさんとヤギたちが笑顔でわれわれ
を迎えてくれます。

「うちには36匹のヤギたちがいるの。この毛を短く刈った子はミルクの質の
高さが品評会で表彰されたのよ。」

なんと、ミルクに含まれる脂肪率(乳脂率)は8%もあるという。平均乳脂率が4〜5%と高い品種であるヌビアンとナイジェリアン・ドワーフをかけあわしているという。


「ブリーディング(改良育種を意図した繁殖)は大事なことよ。

でも、ヤギの健康のことを考えながらしなければならない。

それに、乳脂率が低いからってそのヤギを殺すのは簡単だけど、そんなことはしたくないでしょ。

だからいろんな場所に分けて飼育しているのよ。

じゃ、石鹸工房にいきましょうか。」

◆ヤギ乳石鹸工房

Debbyさんのヤギ乳石鹸工房は家に隣接するガレージ内にあります。

「一年にバーで5000本くらい石鹸製造してるかしら。

でも、近頃は息子と
彼女に石鹸製造をまかせているの。私はヤギたちの世話に専念してるのよ。」


日本の夏は高温多湿でいいヤギ乳石鹸をつくるのが難しいというと、ここでは、午後に製造して、涼しくなる夜に熟成させているという。

「ヤギ乳は時期によって乳脂率がかわり、初乳の時期は乳脂率が高いし、それから低くなるでしょ。乳脂率によって石鹸のできかたも左右される。経験と慣れが必要ね。」


Debbyさんは固形石鹸だけでなく、ヤギ乳リキッドソープ(液体石鹸)も製造している。

「リキッドソープの開発には2年くらい試行錯誤したわ。その間、気温をはじめ石鹸に影響するすべての情報を記録したわ。」


◆ローカル・ソープ

さらに、近くで栽培したラベンダーやセージ、ミント、シダー・ウッドを水蒸気蒸留して、精油や蒸留芳香水(ハイドロゾル)をとり、それを石鹸製造に使っているという。


「蒸留器は、ファーマーズマーケットで知り合った人からトルコ製を中古で購入したの。ハーブを刈り取って24時間乾燥させ、生乾きでの状態で蒸留するといいわ。

でも、私は地元産のもので、この土地ならではの石鹸をつくりたいから蒸留までしているけど、結構大変なのよ。」


アメリカ人は強い香りが好きだし、鼻もよくないから精油は4〜5%くらい入れてるという。

日本の手作り石鹸の平均の2倍以上の量であるというと、日本人のように微妙な香りのよさがわかるようになったら、肌への刺激のことも考え、もっと弱い香りでもいいかもね、とちょっと苦笑。

ヤギ乳石鹸は日本ではまだまだ珍しい存在なんですというと、マーケットでこんなにもヤギ乳石鹸があふれているサンタフェの地は、アメリカでも特別だという。

確かに、ファーストフードがこんなにも眼につかず、オーガニック食材が充実している街というのはアメリカ広しといえど少ないだろう。


◆お客を育てる

「それでも、ヤギ乳石鹸を売り始めたときは、ヤギ乳石鹸を身近に感じてもら
うため、ヤギを市場に連れていって触れ合ってもらったのよ。」

そう言いながら、搾りたてのヤギ乳とつくりたてのモッツアレラチーズをキッチンでふるまってくれた。

どちらも、日本で食べるようなヤギ乳独特の臭さはまったくなく、爽やかな喉ごしとフレッシュな味わいだった。

日本で口にするものはもっと臭いがあると
いうと、ヤギ臭を抑えるような飼料と殺菌方法を研究し、工夫したのだという。


「ヤギ乳石鹸もヤギの牧場もあまり儲かるような仕事ではないわ。

わたしは心
のためにしているの。

だから、情熱が必要なの。」


情熱を体現するようなDebbyさんの風貌と大地のような包容力に、ヤギ乳石鹸の質の高さが相まって、多くのお客さんに買われていくのだろう。

「いつかあなたたちもヤギを飼ってみてね。」
ヤギへの愛情たっぷりのDebbyさんの声を背に、ホワイトロックを後にした。

Second Bloom Farm
サンタフェ ファーマーズ・マーケット


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